近年になって朝鮮民族の王朝か、中国大陸の地方政権かということで大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と中華人民共和国の間の論争が起こっている。 韓国、北朝鮮は高句麗を継承して新羅と対立して北に興った朝鮮民族系の王国という立場をとっており、新羅と渤海が並立した時代を「南北国時代」と呼んで歴史教育を行っている。
一方、中国もまた高句麗同様に渤海は中原の王朝から冊封を受けた地方政権のひとつであるという立場を貫いており、双方は対立して譲らない。中国としては韓国と北朝鮮の統一後に表面化すると思われる国境問題と朝鮮族帰属問題を事前に牽制するために高句麗、渤海問題を利用することと、将来において朝鮮半島への支配力を強めるための外交戦略であると考えられる。
またロシアの歴史学界からは、ソ連の時代以来、渤海は極東少数民族による自立した独自の文化・社会を有した国家であり、中国や朝鮮半島に関連付けることに反対する学説が提示されている。
現代社会の政治情勢と絡み、その歴史的意義が各国によって大きく異なっていることが看取できよう。現在判明している事実を用いて歴史学的立場からこの問題に臨むならば、おおむね以下のように考察し得る。
まずロシアの見解では渤海は満州史(沿海州含む)に含まれ、朝鮮史や中国史に属さないことになる。渤海の構成住民の多くが満州の狩猟民族であったことから一定の客観性を持っているが、支配者層に高句麗の遺民が含まれていたと考察されることから朝鮮史との関連性を完全に否定する歴史観が客観性に十分であるかについては議論の余地がある。
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次に韓国と北朝鮮で主張される南北国時代論であるが、両国で支配的な渤海を朝鮮民族の淵源とする見解は朝鮮半島の現在の民族・国家形成に渤海が一定の役割を担ったことは各資料から推察されるところであり、関連性という面では朝鮮史との関連性は認められる。しかしこの点を以って朝鮮史以外の慣例を否定する点については各国史学会より異論が出されているとことである。事実支配者層に高句麗遺民が含まれ、渤海滅亡後には渤海遺民が高麗へ帰属しているが、全土に満州系住民が存在していた点への考慮が乏しいといわざるを得ない。また歴史的な民族概念と現代の民族概念を同一視している点も問題であり、渤海がすなわち現代朝鮮民族の祖流であるとするのではなく、各住民が混交して高麗期に朝鮮民族が形成されたという見解も広まっている。
最後に中国の「地方政権」という言い分については、「中国」の意味・領域をどこまで拡大するかによるが、言語・生活習慣・民族のすべてにおいて中原の農耕社会とは本質的に異なっていることを考えると是とし難い。更に唐王朝や五代諸王朝、遼・金のように漢語が日常的に使用される地域を一時期でも統治領域とし交わった事実もない。単に冊封体制化の王朝文化において唐王朝の文物を模倣したに渤海文化を中原文化と同一視する点は、古代の冊封体制を現代に援用したものに過ぎないとして批判が強い。 また後年の金から後金、そして清へと繋がる地域を統治した国家である点を重視して中国の地方政権と称す学説もあるが、地理的な問題と歴史的継承問題を同一視した学説に過ぎないとも言える。
日本では渤海を朝鮮・高句麗系の支配層と満州系民族との混成国家であると見做した各国の歴史観を折衷した学説が一般的である。